日本の茶色・歴史上における語源、染料について
今回は、先日のAutumnというブログで使用しているお写真のボトムスの色が
日本の色辞典 吉岡幸雄著作 の中だと、なんていう色名だろうとふと思い
調べたことで知ったことや感じたことをまとめてみました。
調べてみますと、芝翫茶(しかんちゃ)というフリガナがないと読めない色名。
中村芝翫という歌舞伎役者の人気と共に流行したお色目だということ。
お客様の中で、歌舞伎役者さんがお好きだというお話しも聞いたりしておりましたので
その他どんな方のお色名があるのだろうと調べたりしました。
抜けているかもしれませんが、さらりと調べると拝見できるお名前を
4.四十八茶百鼠(しじゅうはっちゃひゃくねず)にてしるしております。
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1.茶色の語源
まず。
自然界のなかで目にする茶色。
・大地
・木々
そして、それらを材料にした
普段の暮らしの中にある茶色。
・素焼き
・木造の住まい
・葉っぱを焙じたお茶
茶色の語源とは。
室町時代より茶の葉の煎じ汁が染料として使われはじめ、それにともない茶色の名が生まれる。
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
※茶の葉に含まれるカテキンが酸化した色
2.茶色の染料
茶色の染料としては、タンニン酸を多く含んでいる
松や杉の樹皮または木の実などが用いられてきたようです。
タンニン酸はどの植物にもふくまれており
染色の効率を考えなければ、茶と黒の色はどこの草木からも得ることができるとのこと。
タンニン酸とは
植物そのものにとって
抗菌作用を持つ大切なもの。
病虫や害虫を防ぎ、強風で揺れて擦れたり、動物につけられた傷口に
タンニン酸が集まって菌の侵入を防ぐ役割を果たしています。
タンニン酸が多く集まっている、柿の実やどんぐりなど地上に落ちる前に採集して使用。
胡桃 写真は、食べる頃のくるみですが、染料としては青い実や青い葉で染めます。
柿は実の青いうちに細かく砕いて圧縮します。
2年あまり置いて自然に発酵させ、上澄み液を染料として使用します→柿渋
杉皮
そのほかには、橡(つるばみ)や 矢車(やしゃ) なども染料に使われます。
茶色の染色 その他
染織に興味のあったころ
栗のイガでヨコ糸を染めたことがありました。
母方の実家からわざわざ送ってもらい染めた茶色。
当時90代の祖母曰く、こんなものが必要かい??という感じで(笑)箱いっぱい送ってもらいました。
その色が、想像以上にすばらしかった思い出があります。
溜息が出るほどに美しいと感じました。
茶色はあまり身に着ける方ではなかったので、下地の色としてあったらいいかなと思っていたのですが
栗のイガから染められた糸を見て、自然界の色の美しさに驚きました。
惚れ惚れして、ずっとずっと眺めていました。
茶色に興味のない人間の心を揺さぶるこの色味。
この美しさは、なんなんだろうと。
そんな思い出から、茶色の染料というと
まずこの栗のイガで染めた色を思い出します。
江戸時代中期
江戸時代の半ばになりますと、各地の特産品が都市へ運ばれ
商品流通も盛んになったことで、豪商といわれる富裕層が登場します。
町民も生活が豊かになり、着るものや身に付けるものが
次第に派手になり、よりいいものを求めるようになりました。
この頃、江戸日本橋に呉服小売店越後屋三井(三越百貨店の前身)が開店し
一般大衆を相手に呉服を売るようになったことも、そのような時世を象徴しているようです。
そこで幕府は、町民に贅沢を禁止することで倹約させ
余ったお金を国の財政に使おうと「奢侈禁止令」(しゃしきんしれい)を たびたび発令します。
素材は
「木綿」 「麻」 以外を禁止。
色は
「茶色」「鼠色」「藍色」のいずれかしか身に付けられなくなりました。
紅色やピンク色、紫や金糸銀糸、刺繍や絞りなども含め
華やかな衣裳を着てはならないというお触れでした。
4.四十八茶百鼠(しじゅうはっちゃひゃくねず)とは
富める町民たちはやむなく受け入れ、茶や黒、鼠系の地味な色合いの縞や格子
小紋染の着物など表向きには目立たないものを着るようになっていったそうです。
その中で、茶や黒にさまざまな変化をつけて、それぞれの色に
当時人気の歌舞伎役者、歴史的人物、風月山水など あらゆるものからゆかりのある名前をつけて
微妙な色合いを楽しんだことで生まれたのが 四十八茶百鼠 だそうです。
四十八茶百鼠とは
【茶色】 や 【鼠色】 のバリエーションの総称。
実際には100種類以上あるそうで、それほどに多かったようです。
人気のある歌舞伎役者と共に流行した茶色の名前
団十郎茶(だんじゅうろうちゃ)
江戸歌舞伎の立役 五代目 市川團十郎(1741~1806)が狂言「暫(しばらく)」で柿色の素袍(すおう)を用いたことからついた柿渋染のような茶系
梅幸茶(ばいこうちゃ)
江戸歌舞伎の立役 初代 尾上梅幸(1717~1783)の好んだ緑がかった茶色
璃寛茶(りかんちゃ)
上方の歌舞伎役者 二代目 嵐吉三郎(俳名:璃寛 / 1769~1821)が好んだやや緑がかった暗い茶色
岩井茶(いわいちゃ)
江戸歌舞伎の女形 五代目 岩井半四郎(俳名:梅我・杜若 1776~1847)が好んだやや緑がかった茶色
路考茶(ろこうちゃ)
江戸歌舞伎の女形役者 二代目 瀬川菊之丞(俳名:路考 /1741~1773)が狂言「八百屋お七」で下女お杉の役で着た衣装で大流行した黄茶のやや赤黒が加わった色
芝翫茶(しかんちゃ)
大阪歌舞伎のたて立役 初代 中村芝翫(1778~1838)が好んで用いたややくすみのある 赤がかった茶色
歴史的人物ゆかりの茶色の名前
遠州茶(えんしゅうちゃ)大名茶人の小堀遠州が好んだ赤みがかった明るい茶色
威光茶(いこうちゃ)
常陸水戸藩初代藩主の徳川頼房が好んだ色で茶みがかった明るい萌黄色
観世茶(かんぜちゃ)
能の観世流に因んだ茶色
光悦茶(こうえつちゃ)江戸初期の書画や陶芸、茶道などすぐれた芸術家の本阿弥光悦(ほんあみこうえつ / 1558~1637)に因んだ上品な茶色
利休茶(りきゅうちゃ)
千利久好みの緑が買った薄茶色
憲房黒茶(けんぽうくろくちゃ)剣術家の吉岡直綱(憲法)が考案した染色の黒みが強い茶色
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5.天然繊維
たびたび発令のあった「奢侈禁止令」(しゃしきんしれい)
素材は「木綿」 「麻」のみの着用を許されていました。
現在では、木綿や麻は 天然繊維としての価値があります。
サスティナビリティ、循環できる資源としての価値です。
木綿=cotton
薬品をなるべく使用せずに地球にやさしい環境を整えて作られているものを
オーガニックコットンと呼びます。天然繊維としての高級感があります。
麻=ヘンプ・リネン
こちらは、自然そのままで育つ、そのままで環境にやさしい素材。
天然繊維として、高級品。
どちらも、今では日常に馴染みのある高級品です。
時代の変化の中で、素材の価値も変化しています。
6.まとめ
芝翫茶(しかんちゃ)というフリガナがないと読めない色名を見つけたことから
ゆるく浅く茶色についてまとめてみました。
中でも、江戸時代のお話しの奢侈禁止令の内容に引きつけられました。
木綿と麻しか着用を許されない。
今や、オーガニックコットンや、リネン・ヘンプなど
天然繊維の持つ価値が高く評価されていると思います。
限定された中で着用する素材と
自由に選べる環境で着用する素材。
共に同じ素材を選んでいたとしても、随分ととらえ方が変わってくるのではないかと思ってしまいました。
茶色のニットワンピースの思い出 ‐余談‐
それは、旅館でアルバイトをしていた頃のほんの数秒間のできごとでした。
厨房から、客室にご注文の料理を届ける役で伺ったお部屋。
開いてすぐに手前にいた女性が料理を取りに立ち上がってくださいました。
その女性、一歩歩かれる度にガクンと上下します。
長さのあっていない義足かなと感じる一歩に驚いて、テーブルの向こうに座ってらした
身体のがっしりとした男性を見ますと、その女性を暖かなまなざしで見守っている。
そして女性はというと満面のほほ笑みで料理を手に、こちらにありがとうと言ってくださる。
この間、数秒です。
この映像は深く焼き付きました。
解釈は違うかもしれませんが、その女性から感じたものは
今迄通りに、おもてなしができる幸せというもの。
ご自身の喜びを大事にして過ごすことの大切さ。
そして、その女性の喜びが何かを知り、静かに受け止める旦那様の存在。
そんな風に勝手に感じとり、感動していました。
その女性のお召しになっていた洋服が、茶色のニットワンピースでした。
身体に優しくフィットした上品なワンピースだったのです。
立ち上がった瞬間に目に入り、わぁ、きれいに着こなされていると思ったのが第一印象でした。
ですのでそのあとの数秒間とワンピースが一対になって思い出となっていて、今回茶色のことを考えていましたら思い出されました。
茶色の小瓶 Little Brown Jug
最後に音楽で茶色にまつわる何かがないかなと調べてみました。
グレンミラー
CDでよく聞いていました(笑)
ジャズのスタンダードナンバーにも、茶色がありました。
茶色のつれづれ、最後までお読みいただきましてありがとうございました。
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